こんな学友がいいですね。古代から奈良そして蝦夷へ【孤鷹の天】

  • 書名:孤鷹の天
  • 著者:澤田瞳子
  • 出版社:徳間文庫
  • 発売日:2013/9/6
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「孤鷹の天」についての第2回目。今回は人物メインで。

1回目はこちら
たくさんの対立構造が交差する【孤鷹の天】

恥の多い生涯を送って来ましたといったのは人間失格だが、あまり自慢するところもないこれまでの自分を振り返って、自信を持って自慢できることは周囲の人間い恵まれてきたことだ。
これに関しては自分の努力は一切なくて、たまたまというか環境の問題で本当にラッキーだった。
特に学生時代の年上の、年下の友人たちの影響は今も続いている自覚がある。
「孤鷹の天」が大学寮が舞台の一つであり、そのことに対して共感めいたものがあったのかもしれない。

敬愛する先輩、桑原雄依と佐伯上信

クールで毒舌の天才的な雄依と熱血漢の好人物上信。
斐麻呂よりよっぽど主人公的な性格のコンビ。
ナルサスとダリューンみたいな感じだろうか?
彼らがいなかったら赤土が斐麻呂たちの学友になることはなかったし、斐麻呂や光庭も生まれなかっただろう。
お互いの人格に影響を与え合った二人だからこそ、雄依の中にあった熱さとそれを引き継いで絶望的な戦いに最後のきらめきを残した上信のストーリーがあるのだろう。
相手をするのは大変だろうが、こんな先輩がいたことはとても恵まれていると思うのである。

憎めない後輩、賀陽豊年

上の二人がナルサスとダリューンなら、こちらはアッテンボローといったところか。性格的にはポプランの方が近い気もするが。
知らなかったのだが、この賀陽豊年は実在の人物。
作中でも早くから漢詩の才能があると言われている彼だが、後年文章博士にまでなったというから、学生の立場から教える方になったわけだ。
漢詩に限らず、学者としての才能があったのだろう。

賀陽氏(賀陽臣、賀陽朝臣)は吉備氏の一族で上道氏の同系氏族。備中国賀陽郡を本拠とした豪族。加夜国造家。賀陽郡の郡司や吉備津神社の神官を務めた家柄。
豊年は堅く信念を持って信義を守り、何に対しても屈服するところがなかった。また知己以外と交際することを好まなかった。さらに身分が高いことを嫌い、ある時に友人の小野永見を訪ねた際には「公」という字を書いて「白眼対三公」(蔑む目つきで大臣に対う)という漢詩を作ったという。また、人々からは、天爵(人徳)は余りあるが人爵(官位)が不足していた、と評されたという。
Wikipedia -「賀陽豊年」より

白眼視の故事は竹林の七賢阮籍だが、彼が白眼を用いたのは主に礼を重視した儒者に対してだというから、大学寮出身の豊年のエピソードとして出てくるのはおもしろい。
それより興味深いのは、豊年が吉備氏の一族であるということだろう。
分派して吉備真備とは別の一族みたいだが、大きく分ければ吉備氏の一族である真備と豊年が反対陣営にいることも興味深い。
なにせ吉備真備は藤原仲麻呂と合わずに左遷されていたという経緯もあるし。
吉備真備は遣唐副使として唐に行っているが、この時の遣唐大使が藤原清河(広子の父)であり、真備が藤原永手と手を組むのもさもありなんという感じか。

万年学生、磯部王

女性を見ると構わずにおれない、数々の浮名を流す万年落第生磯部王。
登場人物の中でも一番吹っ飛んでいる設定になっている。
長屋王の変で自害した長屋王の血族であり、他の親族が長屋王の血族という理由で死んでいく中、万年学生として生きて行くことで(愚を装うことで)生命を守っている人物で、鋭い観察眼を持つ。
ストーリーの後半彼が大活躍するが、なんだか全然違うのはわかっているのだけれど、榎木津礼二郎が浮かんできた。
「探偵だっ!」とは言わなかったけれど。

天才軍師、吉備真備

吉備真備も他では主人公を張れるくらい有名な人物だ。
阿部仲麻呂とワンセットのイメージがあるが、これは夢枕獏さんの「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の中で囲碁を打つシーンがあったからか。あれ、あったよな?別な本だったっけ?
本書の吉備真備は唐で兵学も学んできた軍師としても活躍している。

牡鹿嶋足

この本の中で、自分に一番影響があったのがこの牡鹿嶋足だった。
恵美押勝の乱では坂上苅田麻呂のもとで官軍を率い、高丘比良麻呂が襲撃された際赤土の目の前で雄依を殺害する。
蝦夷生まれの生粋の武官であり、物事の考え方もいたってシンプル。腹芸のできない人物だ。

さてこの牡鹿嶋足がなぜ一番影響があったのか?
それは彼が蝦夷出身であること、「嶋足」であることだった。
実は嶋足には他の本の中で一度会っている。

高橋克彦さんの「火怨」の中で道嶋嶋足として登場している。
あちらでは故人としての登場だけども。中央政界において位階をもらった蝦夷に対する反逆者という扱いだった。
(実際には反逆者ではなく、蝦夷を思ってのことを匂わせているが)

そして嶋足の上官坂上苅田麻呂。彼は阿弖流為と戦った征夷大将軍坂上田村麻呂の父親なのだ。
まさかこの本の中で火怨へ繋がって行くとは思わなかった。

日本の古代というのは自分の中でとても暗い分野で、いろいろな本を読みかじった知識が点々としていたのだけれど、
ここで時代と地域が繋がったのである。これは大きかった。
これまでは蝦夷側の本ばかりだったけれども、これでその時戦っていた大和朝廷がどんな国家だったか、どんなことを抱えていたのか、別の視点から見ることができる。

火怨を読んだ時の記事はこちら
勝ち続けた阿弖流為にifを考える【火怨 北の燿星アテルイ】

こうなると高橋克彦さんの「風の陣」も読まねばなるまい。

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