汨羅の鬼はどこへ行く。逆転と逆転の物語のスタート【後宮に星は宿る 金椛国春秋】
- 書名:後宮に星は宿る 金椛国春秋
- 出版社:角川文庫
- 発売日:2016/12/22
理不尽すぎる世の中で、少年は生き抜くことができるのか。
傑作中華風ファンタジー!
カドカワストアより
こんなコピーがついている。
中国小説好きとしては是非読みたい、ということで正月休みを利用して読むつもりで購入。
まさか読めるのが2月になるとは思わなかった。
叔母が皇后に立てられたために、「皇帝に外戚なし」の法のもと、星家は全員前皇帝の死に殉じることになる。
病弱で世間知らずの遊圭は寮母の胡娘に逃がされる。暗渠に逃げ込んだ遊圭を助けたのは、以前遊圭が救ったことのある明々。
ところが明々は後宮に上がることとなり、遊圭は明々のお付き女童李遊々として共に後宮に上がる。
病弱だった遊圭は胡娘から薬の知識と本草集を託されている。
官僚の登用試験を受ける予定だった遊圭の知識と、薬の知識、弱者に対する仁と機転によって、自ら見つかったら即処刑という危地に飛び込んだ遊圭はどうなっていくのか。
宦官というシステム
女装の遊圭と幼い頃に宦官として性別を失った玄月。
この対比が逆転と逆転が物語のひとつのポイントになるだろう。
しかし最近読んだ本に司馬遷が出てきたせいか、宦官というシステムの残酷さを際立って感じざるをえない。
宦官、官僚、外戚の三すくみは歴代中国王朝の政治的な基本構造みたいな部分もあるから、物語の中では皇帝と皇太后との勢力の中に巻き込まれている玄月だけど、おそらく高位に進めば進むほど同じ宦官たちの妬みや、官僚たちの敵意にさらされることだろう。
もしかすると物語中まだ登場していないだけで、実際には玄月は外の人間(官僚)たちともやりあっているのかもしれない。
ある種の閉塞感
逆転と逆転が呼ぶものか、後宮という閉じられた世界のせいか、女性しかいない空間のせいか、考えてみたら常に絶体絶命なせいか、読んでいてなにか閉塞感めいたものを感じる。
その中で西方の風を吹き入れ、動きを出すのが胡娘。進出鬼没、機転がきき、遊圭への母性(忠誠心)が厚い。アルスラーン戦記のダリューン的な存在か?
というのも、あまりアクションシーンは多くなく、アクション向けのキャラも多くないのだ。
胡娘のほか玄月が剣を使えることはわかっているが、あとでてきたのは宮廷の警護の人たちと獄吏くらいなのだ。
なにせ主人公はひ弱な李遊々、彼にアクション的な期待はしてはなるまい。
(暗渠の中に潜ってみたり、なかなか冒険的なことは期待できそう)
「汨羅」だったり儒教関係だったり、中国史好きだとちょっと嬉しくなる単語も登場。
やや反抗期気味の遊圭と、お姉さん役の明々、この二人がこれからどうなっていくのか楽しみだ。
しかし、一番ひどい目にあってるのは実は明々だったりしないのだろうか。。
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