さまよう湖と笑わない皇妃と光秀の見たものと、など【楼蘭】

  • 書名:楼蘭
  • 著者:井上靖
  • 出版社:新潮文庫
  • 発売日:1968/1/29
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中島敦の「弟子」がおもしろかったから「孔子」が読みたく近所の本屋に行った。
けど残念ながら「孔子」がなかったから、「楼蘭」と「天平の甍」を買ってきた。
「天平の甍」は澤田瞳子さんの本が好きになっていつか読もうと思ってたから。

中華世界よりも、その外側に匈奴やシルクロードのオアシス諸国のお話。
「楼蘭」「洪水」「異域の人」「狼災記」「宦者中行説」。
「さまよえる湖」で有名にロブ湖。「さまよえる湖」は国語の教科書だったか。
三国志の時代の話もあって、その頃西域で何があったかという視点で読むのもおもしろいかもしれない。
その他にもインド系、仏教系、戦国武将、近代を描かれた時代は幅広い。
ハッピーエンドの話があるわけではないけど、中身が濃いというか、集中して一気に読み終えてしまった。

西域と匈奴

匈奴関係では「狼災記」がおもしろかった。
中島敦の山月記のようなストーリーだが、山月記と違うのは狼(虎ではなくて)になってしまった理由がわかっていること。
それから、この狼は狼として終わることだろう。
「異域の人」は漢書の編者班固の弟、班超が西域で過ごした半生を描く。そして老人となった班超は自分の最後に長安に戻るが。。
中島敦絡みでいえば李陵を読んだ後だし、篠原悠希さんの「後宮に星は宿る 金椛国春秋」も読んだばかりで、どうも宦官づいている。この本の中では「宦者中行説」。匈奴行きを命じる武帝に対し、行けば必ず漢に対し災いになるという予感をもって匈奴に向かった中行説。中行氏ということは、大元は荀林父あたりに行き着くのだろうか?宦官を宦者という言葉の使い方もちょっと新鮮である。

過去記事
– 中島敦「現代日本文学館 李陵 山月記」
万城目学さんの「悟浄出立」を読んだからやっぱりこっちも【現代日本文学館 李陵 山月記】
– 篠原悠希「後宮に星は宿る 金椛国春秋」
逆転と逆転の物語のスタート【後宮に星は宿る 金椛国春秋】

褒姒はどう笑ったか「褒姒の笑い」

笑わない女性、亡国の笑い褒姒である。ちなみに「顰に倣う」のは西施の方。
この本の中ではアッというまに笑みが消えて、幽王はまたそれが見たいがために烽火を上げさせる。
褒姒はにっこりしたのか、それとも高らかに哄笑したのか、ニヤリと笑ったのか。
狂ったように笑ったようなイメージもあったけど、幽王が見てもっとみたいという笑いは、妖艶だったのか可憐だったのか。
不敵っていうのもあるけど、これはちょっと違う気がするな。

明智光秀は何をみたか「幽鬼」

中国や仏教系が続いた後に急に日本、本能寺の短編。
秀吉の加勢に指示通り向かうか、下克上を果たすため京に向かうかを未だ決断しかねている光秀が馬上で見たものは。
最近の光秀像って、比較的いいイメージのものが多い気がする。
悲運の将であったり、思慮深く悩み深き、といった感じの。
この短編中の光秀は、信長を(と嫡男信忠を)殺し下克上を果たすことは乱世のならいであり、主君殺しの罪悪感はない。
ちょっと悪者な感じのする戦国武将なのだ。
こういうイメージの光秀って最近なかなか見ないので、かえって何か新鮮だった。

このほかにも仏教的な説話をもとにしたものなどがあり、いろんな時間と場所を存分に堪能した気分。
天平の甍読み終わったら、今度はやっぱり「孔子」読みたいなぁ。

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