このタイトルに込められた意味は【夢も定かに】

  • 書名:夢も定かに
  • 著者:澤田瞳子
  • 出版社:中公文庫
  • 発売日:2016/10/21
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中央公論新社の書籍紹介ページではこのようなキャッチコピーで紹介されている。

翔べ、平城京のワーキングガール!
夢も定かに|文庫|中央公論新社より

奈良時代の後宮に努める女性官吏3人の物語。
阿波の若子、伊勢の笠女、因幡の春世は同部屋の采女。
性格的には、若子はよくも悪くも平々凡々であり、笠女は上昇志向は強いが姉御肌、春世は数々の男性と浮名を流し女磨きに余念がない、と三者三様。
同僚氏女や上司の嫌がらせにも負けず、男性官僚や貴族とも女性として官吏として立ち向かう彼女たちは奈良の都の後宮で生きる決意。
ワーキングガールは、キャリアウーマンになるか。

平城京の後宮

後宮を舞台にした物語だが、帝の寵を競う貴妃たちの小説ではない。
その後宮の中で官吏として生きる采女たちのお話である。

奈良時代の後宮というものがまずはイメージがなかった。
江戸時代の大奥ともまた違うし、平安貴族のような印象ともまた違う。
政治の頂点が帝にあり、その生活を円滑に進めるための官僚集団といった感じだ。
地方豪族出身の采女と、中央貴族の子女である氏女はノンキャリアとキャリアの関係になるか。

とりまく政治状況は、帝(首・聖武天皇)はやや優柔不断(ダメ男代表みたいな扱い)。
長屋王を中心とした皇族派と4兄弟を中心とした藤原氏の権力争いが行なわれている。
この2派にはそれぞれ帝の妃があり、どちらが皇太子を産むかで大きく権力構造が変化する状態だ。

所属する部署は、若子が帝の食事を司る膳司、笠女は書司、春世は縫司とこれもまた三者三様だが、どういう部署でどういう仕事をしていたかがわかるのもおもしろい。

属性の対立

澤田さんの小説では前回読んだ「孤鷹の天」もそうだったが、複層の対立構造の中でストーリーが進む印象がある。
今作では、その対立構造は(もしくは対比と呼ぶべきか)は個人と個人の対立構造ではなく、キャリアとノンキャリア・男性と女性・貴族と官僚・地方と中央といった属性の対立、もしくは構造上の対立と呼ぶべき対立構造がある。

奈良時代という遠い過去の時代を、現代でも同様である社会構図の中で進展させることでイメージがわきやすく、自分がどのキャクターに感情移入しやすいかといったところ。

孤鷹の天の記事はこちらをどうぞ
たくさんの対立構造が交差する【孤鷹の天】
こんな学友がいいですね。古代から奈良そして蝦夷へ【孤鷹の天】

3人は実在の人物

解説によると、主人公3人には実在の人物がモデルがいるらしい。
春世などはWikipediaから引用すると、

因幡八上采女
因幡国八上郡の豪族・因幡国造氏出身で、『万葉集』に載せられた安貴王との悲恋で知られる。
Wikipedia 采女より

と紹介されており、同ページに記載された飯高諸高が笠女のモデルか。
後世に名の残る采女たちの若い頃の青春譚という見方もできてくる。

このタイトルの意味は・・・

全部読み終わって、はたと思ったのが、この「夢も定かに」のタイトルは何を意味していたんだろうということ。
実在の人物を小説の中に連れてくることの多い澤田さんだから、これも何か元のなにかがあるのかな、と。

時代的には和歌かなぁ。
ネットで調べて気になったものをピックアップすると次の3つが見つかった。
時代は奈良(万葉集)に限らず平安時代まで。

むばたまのやみのうつつは定かなる夢にいくらもまさらざりけり

涙川 枕流るる うきねには 夢もさだかに 見えずぞありける

よひよひに 枕さだめむ 方もなし いかに寝し夜か 夢に見えけむ

さて、この中に若子たちをあわらしたものがあるのかどうか?
もうしばらく考えてみようと思う。

参考サイト

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