天保の時代の雪の結晶の情緒と自然科学と人【六花落々】
- 書名:六花落々
- 出版社:祥伝社文庫
- 発売日:2017/10/12
子供心に見た雪はなんとなく丸いイメージが初めにあって、粉雪、粒雪、ぼた雪、どうもいろんな雪が降ってくることに気がつく。
そうして塀の上に積もった雪や、雪の上に積もった雪を見ていると、どうも端の方がトゲトゲしていたり、野田雪の中に模様があるように見えたりする。
つまり雪の結晶というやつで、この話は江戸時代にこの雪の結晶を発見して取り憑かれてしまった下総国古河藩の下士小松尚七が主人公。
不思議に思ったことをやり過ごすことのできない「何故なに尚七」は、江戸詰の物頭鷹見忠常に抜擢され養子としてやってきた古河藩次期藩主土井利位の学友として抜擢される。
儒学(朱子学)においては藩校で教鞭を執ることのできるほどの学問を修めてた尚七は当時の最先端である蘭学に胸を躍らせる。
登場人物の豪華さとその時代背景
しかし、まあなんと登場人物たちの豪華なことか。 ちょっとだけあげても、
- 大黒屋光太夫
- 渡辺崋山
- 間宮林蔵
- シーボルト
- 大塩平八郎
その他にも多士済々。歴史の教科書に載ってる人たちがわんさか。
当時時代の最先端だった蘭学が物語の中心にあることで、蘭学に関わった人たち、蘭学によって政治を見渡した人たち、そういった一流どころがたくさん出てきて、そのような人物の中の一人である鷹見忠常のもとにいる尚七も、様々な人に出会い、様々な経験をすることになる。
それから個人的に訪れたこともある雪国の雁木が見られる「牧之通り」の、というか「北越雪譜」の鈴木牧之もまた、物語に直接登場することはないが、豪華な登場人物の中の一人だろう。
これらの登場人物が関わる事件や出来事だけでも蛮社の獄、シーボルト事件、天保の大飢饉が原因でもある大塩平八郎の乱と、尚七たちの生きた時代が大変な時代だったということだろう。
蛮社の獄、シーボルト事件なんかは、江戸幕府の海防、鎖国と世界の情勢と蘭学(というか海外との繋がり)の影響のあった出来事だろうし、雪の結晶の発見数からその年の冷害を予測できるようになってしまった自然科学の徒とも言える尚七たちにとって天保の大飢饉と大塩平八郎の乱もまた直接間接は問わず大事件であったろうと思う。
「六花落々」と時代が重なる話
そういえば以前読んだ「涅槃の雪」はこの物語の後半部分と時代が重なるのか。
涅槃の雪
「涅槃の雪」は私事でバタバタで感想をまとめていないけれど、江戸町奉行の与力を主人公にした話で、水野忠邦の天保の改革の時代の話。遠山の金さんこと遠山景元が町奉行で登場したりとこちらもおもしろかった。
こちらの本にも名前が出てくるのは矢部定謙とか大塩平八郎とかかな。
こちらの物語と直接関わることはないけれど、同時代のお話を違う角度から楽しめるので合わせて読むことをお勧めする。
そういえば「涅槃の雪」も雪の話か。
西條さんは北海道生まれとのこと、雪に対しての思いもあるのかもしれない。
好きなエピソードと描かれた人物の仕掛け
尚七、忠常、利位の3人で、長い時間の観察研究で完成させた雪華図説。
あとがきを読むと、西條さんは鷹見忠常(泉石)に興味をもって、このお話ができたという。
物語が進み登場人物が年をとり、その時間の積み重ねの中で尚七、忠常、利位はそれぞれの身分、それぞれの立場から自分とお互いをどのように感じるのか。
物語の主人公は尚七であるが、西條さんは尚七の目線を通して鷹見忠常という傑物を描いた訳なのだろう。
そういえば渡辺崋山の描いた鷹見泉石像はたしかにどこかで見た(教科書か何かの本か)記憶はあるな。
ちなみにあとがきによると主人公小松尚七も自在の人物らしい。
個人的には、将来の妻となる多加音とおらんだ正月を祝う席で会い、尚七と夫婦になるまでのエピソードと、お互いの興味をもつこと知識欲をもつことにお互いに敬意を払う二人の人間関係に羨望とこんなふうになりたいな、という思いを感じる。
ちなみにそういうのは宮城谷昌光さんの「沙中の回廊」の中の在野時代の郤缺夫妻(これは胥臣のエピソードになるか)や漢の光武帝を描いた「草原の風」の「官を得るなら、妻を娶らば陰麗華」のエピソードにもちょっと感じたことがある、ような気がする。
タイトルの「六花」とは雪の異称ということで、なんともまぁ綺麗な名前をつけたもんだと思う。
雪国生まれなので、雪にはちょっと思い入れというか、冬になれば雪は見たいものだと思うけれど、やっぱり雪は部屋の中から窓越しに見ているには、とても綺麗なものだと思う。
参考サイト
広告
広告
この投稿へのトラックバック
トラックバックはありません。
- トラックバック URL
この投稿へのコメント