居合抜きの始祖と呼ばれた男の仇討ち【居合 林崎甚助】

  • 書名:居合 林崎甚助
  • 著者:近衛龍春
  • 出版社:PHP文芸文庫
  • 発売日:2014/11/10
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近衛さんの本を読みたいと思ったのは本屋さんでジャケ買いしそうになった本があったから。
その本がこちら。

九十三歳の関ヶ原 弓大将大島光義

大島光義という人物も初めて聞いた名前だったし、「九十三歳の関ヶ原」ってなんだろうと思って。
文庫になるのはきっともう少し先に違いない、ということで他の本はないかなと探した結果、近くの本屋さんにあったのが「居合 林崎甚助」でした。

居合の始祖

剣豪小説になるのだろうか。居合の始祖と呼ばれる林崎甚助の前半生を描いた作品。
将軍家から山形最上家へ、礼法の指南役として抱えられた父を坂上主膳による暗殺によって失い、同時に家禄も召し上げとなり貧窮する甚助母子。
仇討ちと家名再興を母親から望まれ、幼い頃から剣術の修行に明け暮れる。
体の小さい甚助は、その不利を補うため神託によって長い太刀による抜刀術を独自に鍛錬し、やがて仇討ちの旅に出る。

旅の中で実戦経験を積んだ甚助はやがて都へたどり着き、茨組と呼ばれる集団に付け狙われながらも将軍足利義輝にもその兵法を認められ、やがて仇敵坂上主膳と出会い、といったストーリー。
居合の技の描写が多く、その動きをイメージしながら読むことができた。技に名前がついているあたりが必殺技的な感じがする。

悪者が悪者らしい

勧善懲悪というか、この本の中では悪役がとても悪役らしい。
甚助の仇坂上主膳が小悪党なら、その主人である松永久秀は将軍家も憚かる実力者であり、己の損得勘定で人の命も天秤にかける悪党っぷり。
無自覚の無邪気さで甚助に教えを請う将軍義輝は久秀にいつも苦渋を飲まされる。

強盗、追剝ぎも必要ならばやってきた坂上主膳が、最後は妻を娶り、嫡男が生まれ家名が存続することを望んで甚助に立ち向かうあたりがちょっとおもしろい。若き織田信長にあしらわれつつもその大器を見た人物眼は確かなところ、というか機を見るに敏であったという人物か。
三好長慶の家宰である松永久秀は乱世の梟雄と呼べるような人物だが、本書の中では相手の心理と置かれた状況を判断し、自分の望む方向へと相手の状況を追い込んでいくというあくどさが目立つ。

ところが甚助自体清廉潔白な人物かといえばそうでもなく、女性に求められると拒めない弱さがあり、一箇所に長逗留したりする。
その度に騙されたりもするわけだが、その上生真面目な性格なので実際に会うとなかなか手強いタイプかもしれない。

居合といえば

新撰組3番隊隊長の斉藤一を描いた、『一刀斎夢録』(浅田次郎 著)上下巻でも居合は一つのキーワードとなっていた。
斉藤一が吉村貫一郎とともに助けた少年が、居合の名人である斎藤に教授され居合の達人となり、西南戦争において斎藤と激突するシーンがあった。
居合について語る斎藤と、技術的に自ら気づき、工夫を重ね、なぜ、どうしたらを追い求めた甚助が、剣に生きるものとして重なるところもあった。

甚助は己の抜刀術を、正当な剣術ではなく仇討ちのためのものだという。
暗殺のために居合をもちいた斎藤と、暗殺された父親の仇を討つために抜刀術を磨き上げた甚助。
甚助が神託を得た神社は現在では甚助自身も祀られ、林崎居合神社として山形県村山市にあるとのことだ。

一刀斎夢録

参考サイト

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