陸奥南部藩に実在した女大名の物語【かたづの!】

  • 書名:かたづの!
  • 著者:中島京子
  • 出版社:集英社文庫
  • 発売日:2017/6/22
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初めて読んだ中島京子の小説。江戸初期の南部藩が舞台の小説なら是非読みたいと思ったのだ。
江戸時代の初期、陸奥南部藩にいた女領主、清心尼の物語。
時代の流れとしては秀吉の奥州仕置から九戸政実の乱が終わり、南部宗家に三戸南部氏が付きその家臣扱いとなった八戸南部氏は領主直政とその妻弥々の時代。
夫君直政とやっと授かった長子久松が相次いで急死し、女亭主として八戸領主となる弥々(清心尼)が八戸から遠野に移封された八戸南部氏の様子を弥々を主人公に、かたづの(片角)の視点から描く。

物語の世界には河童が住み、語り手たるかたづのも不思議の存在。西洋の猿と中国式の手妻、蝦夷の霊に絵から抜け出る鳥。
不思議が当たり前に住んでいるファンタジー世界。遠野物語の遠野へ移封されていく弥々たちの周りは人知を超越したものが取り巻いている。
数少ない女大名清心尼という縦軸と、河童起源説や座敷童子の住む世界観が描かれる。

南部氏という古さ

外側から見たときにまずややこしいのが南部氏の在り方だろう。
八戸、三戸、九戸等々、知らない人から見たらイマイチ区別のつけづらい地名と名前。
戦国時代を経て江戸時代を迎えても、南部氏の在り方がもともと同族連合的であったということを理解するのにちょっと時間がかかった。
なんせこの南部氏ってのが古い。
読んだ本の中では北方謙三さんの「破軍の星」に北畠顕家の部下として南部氏が出てきていた。

破軍の星 (集英社文庫)

それでもって、三戸家を中心にした南部氏っていうのが、はっきりとした臣下の関係ではなくて、ある程度対等な力を持った同族の連合体であり、それが三戸家を宗家として家臣団に組み込まれたのが秀吉によってであり、それに対する不満から九戸政実の乱も起こっていること。

高橋克彦さんの九戸政実の乱を書いた小説「天を衝く」を読んだ時の感想はこちら
新しい蝦夷の反抗九戸政実の乱が起こるまで【天を衝く】

八戸南部家も三戸南部家との協力者ではあったけれど、基本的には違う家だったということ。
ここのところがちょっとわからないと清心尼を始めとした八戸(根城)南部家の三戸家への反抗心と恐怖心がちょっとわかりにくい。

南部利直という藩主のもとで

後継の問題、移封の問題、他藩との鉱山の問題、家臣団の軋轢。家族内の問題。
物語内でスッキリ解決するものは少ない。
何か問題が起こっても、我慢して我慢して対応して。そしてまた次の困難がやってきて。
夫と子供の死の原因は。はっきりと結論づけれられないものもある。

ちょっとモヤモヤしたけれど、なんだかそういうもんだよなっていう納得感もある。
そのときそのときで、起こっていることを整理して、悪くならないように我慢して。
後から考えてもわからないことなんていうものがたくさんあって、それでも何かを決めて行かなくてはならなくて。
勧善懲悪の世の中でもないし、ハッピーエンドばかりが続きはしない。
煙管をくわえた清心尼の気持ちがなんとなく。
女大名清心尼の記事はいくつかあったので、参考サイトして一番下に載せてあります。

見たことのある不思議の風景

河童の起源は左甚五郎が馬淵川に流した櫛引八幡宮の木屑から生まれたという。
遠野の河童は清心尼についていって遠野に住んだという。
安産祈願に失敗した河童。
十和田湖の大蛇、海猫の蕪島、河童の住む馬淵川。見たことのある風景。

タイトルの「!」はどういう意味があったのか?
感情移入しやすい、というか、ひどく郷愁にかられたのだ。
馬淵川の河原に上がる花火。

参考サイト

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