ファンタジーが現代とリンクしてくる【黄金の烏】

  • 書名:黄金の烏
  • 著者:阿部智里
  • 出版社:文春文庫
  • 発売日:2016/6/10
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阿部智里さん「八咫烏」シリーズ3作目。
今回は前2作よりちょっと厚いです。
内容的には、八咫烏の宮廷世界、貴族層の妃選びにまつわる話をミステリー風味に仕上げた「烏に単は似合わない」、「黄金の烏」の主人公(?)雪哉の生い立ちと若宮との関係を描いた2作目「烏は主を選ばない」で確立した「八咫烏」の山内の世界観の中で起こる、麻薬事件と異種族大猿との対抗といったところ。

 

タイトルが変わったこと

このシリーズはずっと「烏+○○+〜ない」といったタイトルで行くのかと思ってたら違った。
本作を読むと、この「黄金の烏」から本編であり、前2作はこの前日譚だったという感じなのかな。
「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」の2作で「八咫烏」世界の構造の概略と主要登場人物の紹介をしていたと考えると、著者の遠大な構想にビックリさせられる。前2作も、それぞれの作品としておもしろく読んだ(物語として完結している)し、それがこんな風に繋がってたのかという驚き。

印象的なシーン

視覚的に印象的だったシーンは若宮と雪哉が不知火を見に行くシーン。
イメージは夜の山の高速道路のトンネルを抜けたら急に街が見えた時みたい。
不知火がなんであるかは本を読んでいただくとして、ここで急速にファンタジーが現代とリンクしてくる。
現代とリンクしたファンタジーは、現実とファンタジーの混合というよりも、よりファンタジーの中の世界が広がって行ったように感じる。
(小説世界の現実世界がそもそも虚構じゃないかなんていうことではなくて)
もともと「八咫烏」の山内という世界、世界観が確立していたところに、別の確立された世界が入ってくることで重なる部分重ならない部分と世界がより複層的になった。
小野不由美さんの「十二国記」シリーズのサイドストーリー「魔性の子」の、日本からあちらの世界が見えたのともまた違った感覚である。

水平と垂直の世界観

現代とリンクした世界観を横に繋がったと感じるならば、本作では山内の世界の中で垂直に世界観の掘り起こしが行われる。
1作目「烏に単は似合わない」で華やかな宮廷、貴族生活を描いていたが、本作では庶民、地方人、そして暗黒街(地下街)の住人まで登場する。
貴族社会だけではない、世界の下層に生きる人々がいることで今度は垂直方向への広がりが見える。

異種族

垂直に掘っていった結果になるけれど、ここでさらなる異物として。人食い猿という異種族が登場する。
種族が違えば、常識も生活観も当然違う。ここでは捕食者と被捕食者の関係としてあらわれたこの大猿という種族に対する戦いが今後のストーリーの鍵になっていくのかな。
いずれにせよ、広がった世界といろいろな種族が出てきたことで、よりファンタジー色が強まったと思うのだ。
ニンゲンがいて、エルフやドワーフが、ゴブリンやトロル、そういうある意味ファンタジーの王道的な世界に近づいていったような気がするから。

単行本ではもう次の「空棺の烏」が販売されてますからね。楽しみです。
今の所毎年6月に1冊ずつ出てるのかな?
来年の6月まで待たなくちゃいけないのか。。。

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