長平の戦いの衝撃をビジュアル化するということ【達人伝 ~9万里を風に乗り~】

  • 書名:達人伝 ~9万里を風に乗り~(16)
  • 著者:王欣太
  • 出版社:アクションコミックス
  • 発売日:2017/3/28
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達人伝ももう16巻。
前巻から続く長平の戦い。名将趙奢の子、趙括を打ち取った 秦の将軍白起が40万の趙の降兵たちをどのようにするのか。

長平の戦いに関しては活字で読んだことがあった。
というか、秦の統一戦においてやはり大きな事件・転換点であり、白起の凄さを語る上でもこの時代のことを書いた本には大概出てくることだから。
ところが活字で読んでいて、自分には40万という数字には正直実感がなかったということが「達人伝」読んでわかった。
一人の人間がそこにいるだけでも、何かを考え、思い、その家族友人がいるわけで、それが40万倍。

それをビジュアル化するっていうのっていうのは(その方法論も含めて)ものすごいんじゃないかと。
きっと作者自身が受けた40万人を生き埋めにしたとことへの驚き、衝撃があったんじゃないかな。
それを絵で見せてもらって、ようやくやっぱりそれがすごいことだったという実感が湧いた。
40万という数字には誇張があるのかもしれないけれど、それにしたってさっていう。

白起を取り巻く時代の物語

実感が湧かなかったもう一つの理由は、これまで読んできたものの中に白起が主役だったものがなかったっていうこともあるかもしれない。
この時代の話は宮城谷昌光さんの本によるところが大きい。
范雎を主人公にした『青雲はるかに』であり呂不韋を主人公にした『奇貨居くべし』であり、もちろん『孟嘗君』『楽毅』であり。(楽毅はもう一つ前の世代になるけれど)

だから秦の宰相范雎がなぜあんなに傷だらけなのかは前提がわかっていたし、范雎に対し絶対的な信頼をおいた秦王昭襄王というものも見てきている。
范雎と白起の考え方の違いに関しては、白起が范雎が追い落とした前の宰相魏冄が抜擢した将軍であったということも。
(宮城谷昌光さんは魏冄という人物が好きなんだと思う)

主人公荘丹が荘子の孫であったということ。
40万人の犠牲の因を自分の言葉に感じてしまう荘丹。
中華が凍りつく中で唯一動き回ることのできる(呼吸のできる)丹の三侠。
あまりに緊張してしまうと、呼吸の仕方がわからなくなるもので。
無名の3人はいつのまにか戦国四君(孟嘗君とは邂逅ずみ、作中死去)と呼ばれた魏の信陵君、趙の平原君を焚き付け、ついに楚の春申君にまでたどり着く。
秦と戦力的に戦える戦力を持つ楚の比重は物語を通してもこれから大きくなっていくのだろう。

少なくとも白起の言葉では至極合理的な理由で長平の降兵を生き埋めにした白起。
楚王(考烈王)に対し、祖父荘子の言葉を受け継いだ自分の言葉として宣言した荘丹。
そういえば丹の三侠は春申君に会いに楚の都、陳に向かうけど、考えてみたらこれだって白起がもともとの都郢を「白起」に落とされたが故に遷都せざるを得なくなったんじゃなかったか?
それにしても、一時期は秦と帝号を東帝、西帝として分け合ったこともあった斉の国の影の薄さよ。

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