清少納言は宮中の「華」中宮定子を語る【はなとゆめ】

  • 書名:はなとゆめ
  • 著者:冲方丁
  • 出版社:角川文庫
  • 発売日:2016/7/23
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冲方丁さんの本は「光圀伝」「天地明察」に続いて3本目。
前の2作は江戸時代の水戸黄門のあたりの時代の本だったので、本作で一気に平安時代に行ったことと女性を主人公にもってきたことはびっくりだったが、この時代はサッパリなので逆に興味がわいた。

  

本作は枕草子の作者清少納言が主人公。
清少納言が『春はあけぼの・・・』で始まる枕草子を書くまでのお話で、なぜ書くのか、何のために書いたのか、が描かれている。
枕草子も全くの未読、教科書に出てくる上の『春はあけぼの・・・』のやつ、っていう程度の認識しかなかった。
時代は摂関政治のただ中で、藤原道長が『望月の欠けたることもなしと思えば』と読むことができるようになる少し前の話である。
関白であった、清少納言の主、中宮定子の父である藤原道隆が関白であった時代から始まる。

物語の時代を大きく分ければ、清少納言は中宮定子に仕えるまで、中宮定子の女房として仕え藤原道長と道隆の子伊周の政争の間での戦い、枕草子を書く、という感じか。
話の初めから、悲しいことが起こることを思わせるように書き始められているので、初めの伏線がどこにぶつかるか探しながら読むのもいい。
物語は清少納言が過去を回想しながらの1人語りといった形式。

貴族社会の情景

登場する貴族たちが、いかに漢詩や和歌を使って会話をするのか。会話が漢詩や和歌なわけではない。
漢詩や和歌を読めることと、その知識を持っていることは別のことであり、清少納言はその知識をもっておもしろおかしく切り返すことがうまい。
また、儀式ひとつをとっても、服装の色合いがカラフルかつ、それに対して意味合いを持たせており、そういう雅さというものがあったということなんだと思う。

そのように風流であることが、その貴族社会においてそうあってしかるべきものであり、風流であることに一生懸命である。
清少納言は自分の仕える中宮定子こそを、宮中の「華」であるという。
それは身分、見た目だけではなく、その内面の強さと機知、一途さにおいて「華」であり、清少納言は自分に対し中宮の番人であることを任ずる。

会話の端々、もしくはやり取りに漢詩・和歌が使われることが、逆にこの時代の本を読む上でネックになったりする(漢詩・和歌の知識がない、情景を想像できない、背景がわからない etc)が、本書ではそのような場面では、かならず歌の説明が入る。
これは好きずきかもしれないが、読みやすさはあった。

この時代の小説で読んだものといえば夢枕獏さんの『陰陽師』、少し後の時代となるが高橋克彦さんの『炎立つ』、最近読んだ本では瀬川貴次さんの『暗夜鬼譚 春宵白梅花』もそうですね。 瀬川貴次さんは『ばけもの好む中将』もこの時代ですね。

  

 
  

このストーリーの主人公は誰か

清少納言は著名な歌人である父を持ち、自分にはその歌の才能がないことをコンプレックスに感じている。
清少納言の機転を愛し、「一乗の愛」を貫く同志として認め、そのコンプレックスを枕草子を書くまでに昇華させた中宮定子。
枕草子が漢文でも和歌でもなく、随筆、というよりエッセーと言った方がニュアンスが近いか、の形式になったのかも合わせて語られる。
中宮定子は一条天皇を愛し、家族を愛し、自分の女房たちを愛す。
清少納言は最大級の賛辞をもってこれを讃え、自らの忠誠及び愛の対象として中宮を見ている。

物語は清少納言の1人語りであり、枕草子が書かれるまでを描いているが、その中心にいるのは中宮定子であり、中宮との関係性と中宮への絶対的な信仰が描かれる。
よって、この本の主人公が清少納言だとしても、物語の中の主人公は中宮定子であるとも言える。
伊周流罪において、中宮は激情的な行動をとり、一条天皇に対しては教育者として妻として中宮としてあたり、清少納言はじめ女房たちへはユーモアを持って接する。

藤原道長の時代

ではこの時代、藤原道長父子が摂関政治の絶頂期にいたことはわかるが、政治的に何が起こっていたのかというと、いまいち良くわからない。
道長と伊周もそうだが、宮中内での権力闘争であり自家のための争いであり、そこに政治的な主義主張があったのかどうか。
逆に言えば、そういう状況でも政治が運営できる日本史的に比較的平穏な状況であったのかもしれない。
仏像や大規模な寺院の建立など、大規模公共事業と考えればいいのか。
東北地方の蝦夷の討伐はこれより前(坂上田村麻呂)だし、平将門や藤原純友の承平天慶の乱も終わっている。
源平の争いが起こるのは、摂関政治が終わり院政が始まってからだからもう少し後になる。

そういえば道長の晩年に刀伊の入寇っていうのがあったな。
こちらは葉室麟さんの『刀伊入寇 – 藤原隆家の闘い 』で読んだ。そうか、こっちの主人公の藤原隆家って伊周の弟か。藤原隆家も本作に登場している。
よかったらこちらもどうぞ。

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