幽霊はきっとでてこない。【文庫版 書楼弔堂 破暁】

  • 書名:文庫版 書楼弔堂 破暁
  • 著者:京極夏彦
  • 出版社:集英社文庫
  • 発売日:2016/12/16
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巷説百物語シリーズや百鬼夜行シリーズよりもおどろおどろしさはない。
時代は明治の後半にさしかかるあたりか、御一新がちょっと昔になり始め、西洋文化がどんどん入ってきて西洋文化至上主義的な世情と、それに対する日本文化が萌芽を出し始めた頃の話である。
だから巷説百物語シリーズと百鬼夜行シリーズの間の時期になる。

時代特有、江戸時代にはなかったことや考え方、時代の転換期だからこそ起こった問題や価値観の中で揺れる人たちが謎めいた店主が自ら本の墓場と呼ぶ書楼弔堂へと引き寄せられてくる。

そもそも本屋というものの在り方が大きく変換していく時期の物語。
それまではそれぞれの本屋が刷ることで本を作っていたものが、販売店や取次などの区別が出てきた頃。
輪転機による印刷も始まり、それまでとは書店、読書というものの在り方が変わってきた時期であり、それが物語の中のひとつの背景としてある。

しかしまぁ、登場人物のなんと豪華なことか。
実在の歴史上の人物たちも、それぞれに懊悩を抱え、語り手である元旗本高遠とともに書楼弔堂を訪れることになる。由良、中禅寺など、京極ファンにとっては馴染みの深い固有名詞も登場。
個人的にには中でも「贖罪」に出てくる二人には歴史のifにしても大胆な発想に驚かされた。
他のシリーズに比べると、場所の移動、視点の移動という点では少ない。この作品では、書楼弔堂という空間自体が一つの重要な要素となっているのでさもありなん。
それでも移動にはできたての陸蒸気や俥(人力車)を使い、荷物の運搬には馬を使うなど独特の時代感があっておもしろい。
また、カタカナを「いんふぉめぃしょん」「めるひぇん」「かんと」といったようにひらがなで表記しているあたりにも時代感がある。我々が普段当たり前に使っている単語やそれがあらわすものが、この時代から生まれてきたことも、目からウロコなことだった。

「世の中に無駄なものなどない、無駄にしてしまう人間がいるだけだ。」
新しいシリーズの文庫化。続きが早くも読みたくなっている。

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

巷説百物語 (角川文庫)

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